インフルエンザ治療薬の変遷

インフルエンザの治療薬と言えば、以前は2000年発売された1日2回5日間の吸入薬リレンザと、2001年発売の5日間内服薬タミフルでした。
2010年、1回吸入薬イナビルと点滴ラピアクタが発売されました。
5日間治療するより1回吸入で済む簡便さが好まれたのか、2017年度の売上高はイナビル253億円、タミフル169億円で、近年はイナビルの売り上げ首位が続いているようです。
イナビルやタミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬は、細胞内で増殖したウイルスが細胞外に遊離するのを抑える薬剤で、増殖そのものを抑制する作用はありません。

 

ところが2018年3月、1回だけの内服薬ゾフルーザが発売されました。
ゾフルーザは、A/B型インフルエンザウイルスのキャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性を選択的に阻害し、mRNAの合成を阻害することによってウイルス増殖抑制作用を発揮する薬です。
成人及び12歳以上の小児には20mg錠2錠(または顆粒4包)を単回経口投与します。
ただし体重80kg以上の患者には20mg錠4錠(または顆粒8包)を単回経口投与します。

 

   

 

NEJMという英語論文で、ゾフルーザのランダム化二重盲検比較試験(RCT)が発表されています。
ポイントは下記3点です。

1.症状緩和までの時間は、ゾフルーザ群は、内服しない群(プラセボ群)より26.5時間短かったそうです。
ゾフルーザとタミフルを比較すると、症状緩和までの時間は同じだったと書かれています。理由は不明のようです。
2.ウイルス検出期間は、ゾフルーザ群(24時間)がタミフル群(72時間)、プラセボ群(96時間)よりも有意に短縮していました。
3.また、約1割の患者ではウイルスに遺伝子変異が生じ、ウイルス検出期間がむしろ延長し、有症状期間も長引いていました。

服薬コンプライアンスの観点から言うと、1回2錠のゾフルーザと、1日2回5日間服用が必要なタミフルとでは、患者さんにとってはゾフルーザの方がよいかもしれません。
また、ウイルス量を早めに減らすことができる観点から言ってもゾフルーザの方がよいかもしれません。
しかし、症状緩和までの時間が約1日短くなるだけであり、薬剤によって遺伝子変異が生じ、治るまで長引く危険性もあることを考えると、抗インフルエンザウイルス薬の治療をしないという選択も考えられます。

 

今シーズン、もう1つ市場に影響を与えそうなのが、タミフルに後発品が登場したことです。
今年2月、沢井製薬1社だけが後発品の承認を取得し、9月に発売されました。
1治療あたりの薬価は、タミフルの2720円に対して後発品は1360円と半額
切り替えがどの程度進むのか、注目されます。

 

薬の作用機序、投与回数(日数)、投与経路(内服か吸入か)、価格、どれを重視して薬剤を選ぶ方が多いでしょうか。
予想では、2018年度はゾフルーザが金額ベースのシェアでイナビルに次ぐ2番手に浮上する見通しとのことです。